投与前最終日。メシ、フロ、テレビ、メシ、ネル、アルク、メシ…いつものように平和に終わるはずだった。
夕食後、iPadで映画『自虐の詩』を、笑ったり泣いたりして夢中になって観ていた。
途中、廊下が騒がしく、看護師が大声を出していたのは気づいていたが、耳の遠い人にでも話しかけてるのかなと、いつしか忘れていた。
映画も終わりかけの頃、同部屋の人がベッドを仕切るカーテンを閉め始めたので、私もカーテンを閉めてトイレに行って、ゆっくりラストを味わおうと、廊下に出たら。
「○○さん、大丈夫ですか!名前言えますかっ!?」看護師の声がけとともに、女性トイレから誰かが担架で運び出されるところだった。何事だろうと、遠くの部屋から顔を出している人がたくさんいる。
ドキン!
そういえば、いま来る時、隣のMさんのベッドが空だった。こんな時間におかしい…もしかして食堂でテレビを見ているのかもと覗きに行ったが、誰もいなかった。
どうしよう。今日に限って映画に夢中で、隣の不在に全然気づかなかった。私のせいで、長いことトイレに倒れたままで手遅れになったらどうしよう…
別件で部屋に来た看護師をつかまえて、「もしかしてMさん?」と聞くと、やはり、そうだとのこと。ただ、意識はあるし、倒れてからすぐに看護師が発見したとのことで、少し安心したけれど。
彼女が疎ましがっているA型のご主人が怒鳴り込んで来る様子が目に浮かぶ…万が一、何かあったら大変なことですよ、これは。
初めて会った時、あんなに元気だった彼女が、抗がん剤が進むにつれ、どんどん弱っていくのを見るのは本当に切なかった。もともと色白で細いから、昼間、目をつぶって横たわっている姿は、起こってはいけない未来を見ているようで、時々ドキッとしたものだ。
だから余計に怖いのだ。空のベッドがこんなに恐ろしいものだとは思わなかった。
私の悪い予感など外れ、どうか明日朝になったら隣に戻っていて、いつものように笑ってくれますように。